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君の涙【ヒロアカ】

第9章 目指せ頂点



 『やばいやばいやばいやばいやばい』

 時計を見た瞬間絶望した。家を出なきゃいけない時間に目覚めてしまったのだ。今日に限ってパパは出勤するのが早くて、起こしてもらうことができなかった。昨日アラーム設定したはずなのに。それすら聞こえないほど熟睡していたらしい。
 こんなにも急いで準備したのは生まれて初めてだ。我ながらすごいなと感心するも、急いで学校に行かないと遅刻ギリギリだ。
 寝坊した理由ははっきりとわかっている。あの日からパパと毎日特訓をして、疲労が蓄積したんだ。体育祭前日はゆっくり休むように言われたけど、パパに内緒で筋トレしていたのが仇となってしまった。


 「くん、遅いぞ!急ぎたまえ!もうじき入場だ!!」
 『はぁっ、はぁっ……っい、いい、だく、ん…っ!!』

 ありえないほど広いスタジアム会場を走り回り、ようやくクラスの控え室へたどり着く。今から始まるのに、もう体育祭が終わったような気分だ。
 乱れた呼吸を整えるために、何度も肺に酸素を取り込む。少し落ち着いたところで、梅雨ちゃんが持ってきてくれた水をグイッと飲み込む。

 「ちゃんもう少し早く来てたら面白いもの見れたのよ」
 『ふぅ…面白いもの?』
 「轟ちゃんが緑谷ちゃんに宣戦布告したのよ。男同士の熱き戦いね」

 言われてみれば控え室の中の空気が少しピリピリしている。みんな緊張しているだけだと思っていたけど、そういうことではないらしい。そういう梅雨ちゃんも真剣な目をしていて、気合十分な様子だ。
 全く、寝坊している場合ではなかった。気合を入れ直そうと、両頬をパンと叩く。いよいよ入場だ。


 会場内には予想以上の人で溢れかえっていた。歩きながらその光景に唖然とする。思わず止まりそうになるが、切島くんに背中をトンっと押されそのまま前へ進んだ。

 「すげぇ緊張すんな」
 『うん…すごい人だね』
 「こんな大人数の前で本領発揮できっかな~」
 『…そこもヒーローとしての資質が問われるんだね』
 「あっ、なるほどな!」

 切島くんと話しながら入場する。止まりそうになった背中を押してくれて、何気なく話しかけてくれたおかげで、先程より緊張は和らいだ。さすがだな、切島くん。


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