第1章 もう1人の幼馴染
変なスイッチが入ってしまったお父さんを、もう止めることは出来ない。頬を赤らめて娘のことを熱弁する姿は、親バカ以外の何者でもない。聞いた私が馬鹿だった。適当に「へー」とか「ああそう」とか相槌をうち、再びお箸と茶碗を握る。
「そもそもの個性が現れた4歳の頃なんてな!そりゃあもう可愛くて可愛くて…父さん、お前と離れて会社に行くのがどんなに──」
「まあまあ。お父さんの言っていることも一理あるけど、本当は別の理由があるのよ」
お父さんのマシンガントークに終止符を打ったのはお母さんだった。口の中に入っていたご飯を飲み込み、視線をお父さんからお母さんに変える。お父さんのマシンガントークを聞いたあとだからか、やけにお母さんの言葉が落ち着いて聞こえる。
「でもね、。お父さんとお母さんがその理由を黙っていることにも理由があるの。が理由を知りたがる気持ちはわかるわ…だから高校生になったら、理由をきちんと話そうってお父さんと決めていたの」
『……うん、わかった』
「ごめんね。あと1年だけ待っててね」
別に急いで理由を知りたいわけではない。お父さんとお母さんはきっと私のことを思っていろいろ考えてくれているんだ。それならもうこれ以上詮索する必要はない。
『よし、じゃあ乾杯しよう!』
「えっ?ご飯の途中で?」
「あら、いいじゃない。楽しそうだし」
変な空気を作ってしまったので、ご飯の仕切り直しに乾杯を提案する。ニコニコ笑うお母さんにビールを注いでもらうお父さんも、結構乗り気に見える。
「んんっ、では私たちの可愛い可愛──」
『お父さんお母さんに』
「え?」
『「かんぱーい!!」』
「…か、かんぱーい」
ぐいっと麦茶を飲み干す。「くぅー今日も麦茶がうまい!」とオジサンぽく言うと、呆れたよう笑うお母さんが空のグラスに麦茶を注いでくれた。その様子を見たお父さんがビールを勧めてきたけど、丁重にお断りした。その後は3人で他愛もない話で食卓を潤わせた。
やっぱり家族ってとても大切で、とてもありがたい存在だ。この何気ない日常がとてつもなく幸せなんだと、改めて実感した日だった。