第7章 己の力を人命の為に
「災害水難なんでもござれ。人命救助訓練だ!」
今日のヒーロー基礎学は相澤先生とパパともう一人の3人体制で見ることになったらしい。先生の言い方からすると特例かなにかだろうか。
今回コスチュームの着用は自由。訓練所までは少し離れているためバスに乗っていくらしい。先生の話を聞き終えて各々準備を開始する。自由と言われたが、私はやっぱりコスチュームを着ることにした。私の場合、体操服のほうが個性を発揮しにくいからだ。
着替え終えてバスへと向かう。その時、後からバサッと音が聞こえて、青いものが肩にかかった。
「着とけ」
それは体操服の上着だった。隣に並んだかっちゃんは、じぃっと私を見ている。まるで早く着ろとでも言うように。
『えっと…なんで?』
「ああ?」
『これだと個性使う時に──』
「ごちゃごちゃ言うな。今だけでいいから着てろっ!」
渋々体操服に腕を通す。というかこの体操服かっちゃんのではないか。今更自分のを取りに行く時間はないので、そのままかっちゃんの体操服を着る。でかい。袖が余る。それと…
『………』
「…なんだよ」
『かっちゃんの匂いがする』
「………」
かっちゃんの家の柔軟剤と少しだけ焦げたような匂い。ふんふんとジャージの匂いを嗅いでいると、ものすごくかっちゃんに見られた。口元を手でおさえ、くるりと前を向いてしまったかっちゃん。あ、これは確実に引かれた。
「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう」
笛を吹きながら全力で指揮をとる飯田くん。その努力も虚しく、バスに乗り込むと、思っていたのと違う座席の並び方だった。
適当に奥の方へ進み窓際の席に座る。校舎全体が見えて、意味もないのにマジマジと見つめる。どの角度から見てもヒーローのHになるような造りになっている。拘ってるなと感心していると、隣の席に誰かが座った。
「あ、こらてめぇ!そこどけやっ!!」
「………」
「今俺が座ろうとしたんだよ!さっさとどけ!」
隣に座ったのは轟くんで、何故かかっちゃんが轟くんに噛み付いている。ほかの席も空いているのになぜ怒る。
「俺はどかねぇ」
『かっちゃん、どこの席でも一緒だって』
「俺がそこに座ろうとしたんだよ!」
「おい爆豪!後ろ詰まってんぞ」
「早くしろよ」
『……かっちゃん』