第4章 形から入る人
『おはよう』
「おはようございます、さん」
『あ、あれっ?私の名前…』
まだ名乗った覚えはないのに、何故自分の名前を知っているのだろう。1人ハテナを浮かべていると、黒い髪を一つにまとめた長身の女子生徒がその問に答えた。
「あなたは確か、昨日の個性把握テスト最下位のさんよね?」
なるほど、昨日のテストで名前を覚えられたのか。名前を覚えてもらったのは嬉しいのだが、覚えられ方が悪目立ちなので素直に喜べない。
『……はい。それはもう間違いなくこの私です』
「あら、気分を害してしまったのなら謝りますわ。そういうつもりで言ったのではないの。私は八百万百。よろしくお願いしますわ」
『あーうん。全然気にしてないよ、あはは~。えっと、よろしくね!百ちゃんて呼んでいい?』
「構いませんわ。それなら私はさんと呼ばせてもらいますわ」
丁寧でおしとやかな口調に好印象を持つ。動物で例えるなら鶴のようだ。1つ前の席に座る百ちゃんの背中を見てそんなことを考える。
ちなみに私の席は窓際の一番後ろ。最後の列に私の席だけはみ出ている感じだ。本来ならここの席ではないが、特別枠として受験したため、名前の順の処理が間に合わず、の名前でも最後尾になったのだ。どこの席でも別にいいけど、せめてお隣さんは欲しかったなあ、と思う。雄英高校は席替えというちょっとしたイベントはあるのだろうか。
右斜め前の席は、赤と白の髪色が特徴的な男子生徒だ。カバンを下ろして席に座ろうとしたので、そのタイミングで挨拶をする。
『おはよう』
「ああ」
『…………うん』
こちらも見ずに素っ気なく挨拶を返される。というか、もはやあれは挨拶ではない。せっかくのご近所なのだから、名前を聞こうと思ったのに。彼はあまり友好的ではないのか、それから話しかけづらい雰囲気になってしまった。
午前中のカリキュラムは至って普通の内容だった。プロヒーローを目指す者とは言えまだ高校生。一般教養も必要な知識なのだ。