第3章 そして、春
「32m」
完全に終わった。みんなどれかの種目で爆発的な記録を出している中、私の記録はどれもぱっとしない。絶望感に浸りながら、デクのボール投げを見る。デクもパパから受け継いだ個性を、まだうまく使えていないと言っていた。それでも個性を使わなければ、今を乗り切ることはできない。
「い…今確かに使おうって…」
「個性を消した」
『えっ…』
個性を消すって、それが相澤先生の個性?立ち幅跳びの時も私の個性を消されたってこと?
周りで見ていたクラスメイトも、相澤先生の個性を見て彼はイレイザーヘッドだと話し始める。そういえば聞いたことがある。まさか担任の先生だなんて思わなかったけど。
首に巻いてある包帯のような布をデクの体に巻き付け、なにやら話している2人。ここからだと会話の内容は聞こえない。
ブツブツとなにか独りごちるデクを見つめる。人の心配するほど、自分に余裕なんてないのに。除籍なんていやだけど、それでもデクを応援せざるを得ない。
『デク、頑張れ』
「………」
胸の前でぎゅっと手を合わせる。隣にいるかっちゃんの視線を感じた気がするけど、今はデクから目が離せない。
意を決して投げたデクのボールは、裸眼では追うのも難しいほど遠くへ飛んでいった。記録はかっちゃんを上回る705.3m。赤く晴れた人差し指。痛みに耐えんと浮かべる涙。
「やっとヒーローらしい記録だしたよー」
「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい、おかしな個性だ……」
「スマートじゃないよね」
『すごい…すごいよ、デクっ!!』
「………ちっ!!ふざけんなっ!どーいうことだこら、ワケを言えデクてめぇ!!」
「うわああああ!!」
『ちょっ、かっちゃんっ!』
隣で大きく舌打ちしたかっちゃんは、右手を爆発させながらデクに向かって突進した。慌てて止めに入ろうとするが、その心配はなく、その前に相澤先生が個性を抹消し、包帯のような捕縛武器でかっちゃんの動きを止めた。そして先生がドライアイということを知った。
「んじゃパパっと結果発表」
全種目を終えて先生の前に全員集合する。あまり結果に期待出来ないので、自然と視線は下に下がる。それでも結果は受け止めなきゃいけない。パパにどんな顔して話せばいいんだろう。覚悟を決めて先生の言葉を待つ。
「ちなみに除籍はウソな」