第1章 もう1人の幼馴染
事の始まりは中国 軽慶市。発光する赤児が生まれたというニュースだった。以降各地で「超常」は発見され、原因も判然としないまま時は流れる。
人通りの多い駅前は、いつも以上に賑わっていた。線路の上で暴れているのは怪物化の個性を持つ敵。昔ならありえない光景だろうが、これが現代社会ではごく普通のことだ。
ヒーローオタクである僕は、野次馬のおじさんと話しながら、ヒーロー達の活躍に目を輝かせていた。巨大化の個性を持つヒーローについて、こと細かくノートにメモをとる。ヒーローになりたいという志をおじさんに励まされ、次にその足は市立折寺中学校へと向かった。
今朝の光景にまだ胸が熱くなっている。やっぱりヒーローはかっこいい。もし自分に巨大化の個性があれば、一体どうやって敵と闘うだろうか。そんなことを考えながら上靴に履き替えていると、力強く肩がぶつかった。
「ニヤニヤしてんじゃねえ!朝から気持ちわりぃんだよ!!」
「か、かかかか、かかかっちゃん!いや、あの…これはちょっと色々考えてて…別に変なことではないんだけど、えっと…」
眉間に皺を寄せて目を釣り上げている僕の幼馴染。幼馴染ってもっとこう…仲の良いイメージなんだけどな。かっちゃんは結構過激というか、まあ正直言って怖い。きっと無意識にニヤニヤしていた僕を見て気分を害したんだろう。モゴモゴと語尾を濁らせている間に、いつの間にかかっちゃんは靴を履き替えて廊下を歩いて行ってしまった。
なんとも言えない緊張から解放されてはぁ、と大きくため息をつく。僕も教室に向かおうとすると、先程とは違う優しい力が僕の肩を2回叩いた。
『おはよう、デク!』
「あっ、!おはよう…」
『なんかクラス離れちゃったから寂しいね〜。離れたっていっても隣だけどさ』
「うん。そうだね」
そう言ってこんな僕にも優しく微笑んでくれるもう1人の幼馴染。小さい頃からとかっちゃんの家が近くてずっと一緒にいた。幼馴染なんて繋がりがなければ、きっと僕には無縁の人種だったろう。それほどは男女問わず人気があるのだ。僕と同じ無個性なのに。
『そう言えば今日進路希望のプリント配られるって言ってたね。デクはもう決まってる?』
「い、一応…雄英にしようかな、なんて…あはは」