第13章 学生の本業
翌日、教室の中は職場体験の話で盛り上がっていた。廊下からでもみんなの声が聞こえるほど賑わう教室の扉を開ける。
『おはよー!』
「お、おは、ハッハッハッハー!!」
「、ちょっ…こっち来てみろよ!!」
『え、なになに?』
「おい、やめろ!!来んなっ!!」
お腹を抱えてヒィヒィと笑い転げる切島くんと瀬呂くんに手招きされる。2人の姿で隠れて見えなかったけど、勝己の声が聞こえた。挨拶しようとひょいっと顔を出すと、いつもとシルエットが違っていた。
『おは……』
「………………」
一言で言えば衝撃。どうした、何があった。ピッチリと整えられた髪型を私に見られた勝己は、思考停止したように固まっている。えっと、こういう時はどう反応した方がいいんだろう。私も切島くんや瀬呂くんみたいに笑い転げればいいかな。
『あ、あはははは。勝己もそういう髪型するんだ』
「…………」
ダメだ。反応しない。どうやら失敗だったようだ。相変わらず机をバンバン叩いてお腹を抱える2人が羨ましい。この妙に気まずい雰囲気をどうしたらいい。
『えっと……なんか雰囲気変わったね』
「…………」
これはやばい。無言のままわなわなと震えだした勝己を見て、ほかの言葉を探す。
『わ、私はいつも通りの髪型の方が好きだなあ…なんて』
ボンッと音がした。ついに勝己がキレたのかと思ったけど、どうやらそうではないようだ。髪型がいつもの爆発ヘアーに戻っていて、今の音は髪型が戻った音らしい。やっぱり勝己の髪型はこうじゃないと…なんというか個性が目に見えてる感じがしていい。
「も、戻ったああ!」
「すげえな!戻んのかよそれっ!!」
戻ったら戻ったで大爆笑のお2人。勝己はギャイギャイ文句を言って舌打ちをしている。
『勝己、落ち着きなよ。怒りすぎて顔真っ赤だよ』
「あ"!?これは違ぇよっ!!って、こっち見んなっ!!!」
『うぎゃっ!』
真っ赤な顔を片手で隠して、もう片方で私の顔をグイグイと抑える。両手で引き剥がそうにもなかなか力強い。やっとの思いで勝己から逃れる。瀬呂くんはそれを見てまたゲラゲラと笑っていたけど、何故か切島くんは突然表情を変えて黙り込んでしまった。切なそうな切島くんの目が私を映した。