第11章 トライアル
「ちゃ~ん!」
「待ってたよ」
『うっ…』
今朝の恐怖を思い出し、思わず勝己の背中に隠れる。無意識にギュッと勝己の制服を掴む。勝己はそんな私をチラッと見て、すぐに前の2人に視線を戻した。
「……てめぇら、何の用だ?」
「いやお前にはねえよ。俺らはそこのちゃんに用があんの!」
「ざけんな消えろカス」
いつもと同じような台詞なのに、いつもとは違う雰囲気だ。普段は爆発的に怒ってる感じなのに、今は冷静に静かに怒ってる…ような感じだ。
「なになに?相合傘なんかしちゃって、まさかちゃんの彼氏かなんか?」
1人がヒートアップして勝己に突っかかる。私と恋人だなんてからかわれたら勝己だって怒るだろう。
『あの、彼氏とかじゃな──』
「だったらなんだ」
男の言葉を否定せずにまっすぐ相手を睨む勝己。今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。どうしたらいいのかオロオロしていると、男の相方が何かを思い出したように目を見開いた。
「あっ…おい、やべぇよ!」
「あ?」
「こいつ1位のやつだ!!」
その言葉に男もハッとなり、改めてマジマジと勝己を見る。体育祭の戦いっぷりを思い出したのか、だんだんと顔色が悪くなっていく。
「おい」
「「は、はいぃっ!?」」
「コイツに二度と近づくんじゃねえ。次会った時はてめぇらぶっ殺す」
「「わ、わかりましたぁ!!」」
恐れをなしたのか2人は慌てて去っていった。男達がいなくなり安心してため息をつく。
『あの、ありがとう』
「……今後似たようなことがあったら絶対俺に言え」
『え…あ、うん』
「行くぞ」
先に歩き出した勝己と歩幅を合わせる。2人の会話は無かったけど、傘に落ちる雫の音と雨を踏む音が、そんな気まずさを打ち消してくれた。
先程のこともあったからか、今日は家まで送ると勝己が言って聞かなかった。押しに負けた私は渋々家まで送ってもらうことにした。
『じゃあ送ってくれてありがとう』
「早く家ん中入れよ」
『うん…あ、勝己傘』
「いらねえ」
そう言ってじぃっと私を見る勝己。私が家に入るまでそこにいるつもりらしい。流石にそんなことされたら風邪をひいてしまうので、勝己に手を振って家の中に入った。