第8章 Belief
気になっていた職場体験の事を聞いた。轟くんのところは保須市に行きヒーロー殺しを追うらしい。
心の奥で靄が渦を巻く。行ってほしくない─そんなこと言えるわけなくて。
「轟くん、気をつけてね。何がなんでも死んじゃだめだよ」
『俺も弱くはねぇし、癪だが親父も、他のヒーローもいる。そう簡単に死なねぇから安心しろ』
「……うん」
『どうした』
「不安なんだ。保須、ヒーロー殺し、飯田くん──何か、起こる気がして」
『俺も飯田の様子が気になってる。保須で見かけたら連絡する』
「ありがとう」
携帯を握る手が徐々に緩む。
轟くんの声が聞こえているのに意識の外へ通り過ぎていく。
『悪ぃ、もう眠いよな』
「んー……」
『おやすみ、綿世』
「轟くん……また、あした」
『明日じゃねぇが、またな』
轟くんがふっ、と笑った。そっか……明日じゃないか。学校じゃないもんね。ああ、轟くんの声、心地よくて、だめだ。
気づけば意識を手放して、私は微睡みの中に沈んでいった。
「すき……」
そんな落とし物をしたことなんて、翌朝には全く憶えていなかった。