第8章 Belief
大砲のようにヤマゴン目掛けて突撃するそれは、パンチひとつでいとも容易く散らされてしまった。うん、まあ、予想はしていたけど。
「そんな雑な攻撃じゃプロになんてなれんぞ!お前さんの持ち味はなんだ?今出来る全てを振り絞って使ってこい!」
スイッチの入ったヤマゴンは今まで穏やかだった口調が随分きつくなっている。頷いてもう一度掌をヤマゴンに向けて翳した。
目を閉じて深呼吸をひとつ。集中してイメージする。
するすると腕から流れ出る、体内の綿で撚った糸。私の持ち味はこれだろう。
走りながらヤマゴン目掛けて無数の糸を放つ。ヤマゴンは余裕そうに飛んだり跳ねたりして糸を避けていく。ムキになって集中を切らしたらいけない。
大きく息を吸って背中から綿を出す。それをシーツのように広げ、宙からヤマゴンに覆い被せて目くらましする作戦だ。
「くっらえ……!」
糸を生み出しながら別の形状の綿を出すのは相当きつい。ピアノを触った事の無い人が、いきなり両手で弾くような……そんな不安定な状態だ。
腕から糸、背中からは綿。そうやって何度も心の中で繰り返す。どっちにも意識を向けていないとちゃんと出せているのかわからなくなる。
ヤマゴンに綿が被さるタイミングで糸が彼の足を捕らえた。
「やった…っうぇ!?」
「常に次の行動を予測して動け!」
ヤマゴンは足を振り上げ、絡んだ糸を一気に引いた。私はその勢いで腕を引っ張られ前のめりによろめく。
それと同時に間合いを詰められ、上空からヤマゴンを覆っていたはずの綿もろとも背中に蹴りを入れられた。
「っぐう……」
床に突っ伏したらあっという間にKOだ。
油断なんてこれっぽっちもしていなかったのに、全然歯が立たなかった。
「おっと、悪いねぇ。やり過ぎた。どうする、やめる?」
「っまだやれます!」
立ち上がり床に擦った顎を手の甲で拭う。
ヤマゴンを見据える。
「いい目だ!お前さんの根性、そして器用さ。まだまだこんなもんじゃないだろう?わしをギャフンと言わせてみい!」
口角を上げて愉しげに発破をかけるヤマゴン。彼の言葉に口元が緩む。強くなれそうな、何か掴めるような、確信めいた予感がしたんだ。
にっ、と口角を上げて全身から綿を繰り出した。