第8章 Belief
職場体験二日目。
午前は基礎トレーニングやストレッチ、また昨日と同じく商店街のパトロールを行った。変わったことは特になし。挨拶と世間話をして終わった。
ヒーローが暇というのはいい事だ。
でも、歩合制だから暇ならばお給料が貰えないってことになる。それはそれで問題ではあるけど……そのための副業でもあるんだろうな。
「午後は予定が無いからちと個性でも見せて貰おうかな」
「俺は父さんと兄貴にコレ届けてくるよ」
ケンは茶封筒を揺らして見せてからショルダーバッグにしまい込んだ。颯爽と事務所を出ていくケンを見送った。
ケンの父と兄はヤマゴンのサイドキックだ。某所にてヴィランと思われる人物を張り込んでいると聞いた。
「さ、マリー、こっちだよ」
ヤマゴンが小さなリモコンのボタンを押すと、事務所の隅の床が軋みながら動き、ハッチのように開いた。
隠し扉ってやつだ……初めて見た……!
扉の下には階段があり地下へと続いていた。
ヤマゴンに続き緊張しながら階段を下りると、だだっ広い直方体の空間が現れる。
足を踏み入れると自動で白いライトが点灯して辺りを照らした。ここは地上よりも空気が冷たい。
「事務所の下にこんな場所が……」
「訓練場。ウチのサイドキックは皆ここで個性を鍛えてるよ」
ヤマゴンはつやつやした頭を下げて準備体操をする。私もそれに倣って体をほぐした。
「よし。いつでもかかってきなー!」
「はいっ!」
「ジジイだからって手抜きするんじゃないぞ」
「勿論です……!ヤマゴンが強いのは知ってます」
掌に力を込める。皮膚の下のギリギリのところで充填させるイメージ。溜まったら、それを一気に爆発させる!
イメージの通り両手をめいっぱい横に伸ばしたくらいの大きさの綿が掌から発射した。