第8章 Belief
高く聳え立つビル。何階建てだろう。
ガラスの自動ドアを潜ると受付があり、綺麗なお姉さんが二人姿勢よく座っていた。ヤマゴンが受付で話をするとすぐにネームプレートを手渡された。
「これ着けてね。いくよ」
ヤマゴンの言葉に緊張を覚えながら、首にネームプレートを下げた。エレベーターに乗って三階に移動すると、そこは応接室だった。革張りのソファに座り、何度も居住まいを整えて相手の到着を待つ。
「マリーは緊張しいだねーただの打ち合わせだからもっと力抜いていいんだよ」
「や、ヤマゴンはくつろぎすぎでは?」
ヤマゴンは出されたお茶を飲みつつ、置いてあったお茶請けの煎餅を貪っている。ばりぼりむしゃむしゃ……何とも緊張感の無い音だ。
ノックの音が聞こえるとすらっと背の高いハリウッド映画に出てきそうな格好いいおじいさんが現れた。おじいさんはさらさらの白髪を揺らして朗らかに破顔した。
「ヤマちゃんーいやあ久しぶりだねぇ!いやほんと引き受けてくれて助かったよ!」
「おうおう、コメちゃんも元気そうだね。こちらこそ頼ってくれて嬉しいよ。今回若いのが二人いるからね、どんとこいよ!」
わははと笑い合い盛り上がるおじいさん二人。旧知の仲のようだ。若いの二人はただ見守るしかなくて、顔を見合わせて苦笑した。
雑談もそこそこに私達は自己紹介を済ませ、仕事の打ち合わせに入った。
この仕事というのは護衛の事だった。
依頼人の米田さんを新幹線とタクシーを乗り継いで歌舞伎町まで送迎する。
ヤマゴンは米田さんと歌舞伎町で共に過ごし、私とケンは周辺の警備。終了後、予約済のホテルで一泊するらしい。
そして翌日また米田さんの護衛をしながら自宅に送り届けて任務終了だ。
なんでも米田さんの正体はこの会社の社長。ホテルは名のある人しか泊まれないという警備付きのVIPルームだとか。恐れ多い待遇だ。
「じゃ、よろしく頼むよ」
「はいよー」
米田さんと別れ、事務所に戻る頃にはもう日が沈んでいた。
職場体験一日目はずっと歩いていたような走っていたような気がする。
事務所で着替えた後は近くのヤマゴンの家に行き、夕食とお風呂を頂いた。
わざわざ部屋まで用意してくれていたのには驚いた。
ヤマゴンの奥さんはふわふわの白髪に割烹着の似合う優しいおばあちゃんで、笑った顔がヤマゴンに似ていた。
