第8章 Belief
ビルの影で昼でも薄暗い路地。表通りと違って人通りはほとんどない。一度ごみ捨てをする人を見かけたくらいだ。
ヤマゴンのはためく黒いマントを早足で追いかける。
「ヒーローたるもの空いた時間は鍛錬!」
ヤマゴンの脚は膨れ上がり、隆々たる筋肉が己を主張している。彼の個性は『筋肉増強』。力を込めた部位がムキムキになる。
その姿はバトル漫画に出てくる凄腕の格闘家みたい。本当、何度見てもご老人とは思えないほどの筋肉だ。
早足で歩くのもしんどくて、私は強く地を蹴った。
「も、もう走ります!」
「ファイト!マリー!」
隣にやってきたケンは白い歯を覗かせて眩しい笑顔を向ける。この人も当然の如く余裕そうに両足ジャンプだけで進んでいる。
なぜ私だけ走っているのだろう。
そもそもなぜ二人はこんなに速いのか。筋肉とかそういう問題じゃないような。
「そういえば!ケンの個性はなんですか?」
「俺?能力強化だよ!身体能力をアップ!パワー、スピード、ジャンプなんかの力が跳ね上がるよ」
「へえー!オールマイトみたいですね!」
「あははっ彼には適わないけどね!でもトップヒーローと似てるってのは嬉しいよ」
オールマイトの個性は公表されていないけれど、恐らく増強型とされている。ヤマゴンもケンも同じ増強型だ。
ケンの個性は同時に二つ以上の能力は上げられないのと、スタミナは変わらないから長期戦には向かないらしい。
「雄英では散々体力底上げ、能力上限の向上をしたよ。マリーもそのうちそういう個性を伸ばす訓練をするだろうね!」
「ケン!お前さんはお喋りが多いぞ!」
「はーいごめんなさーい!」
「伸ばすんじゃない!」
あれ、こんな感じのやり取りどこかで見たような?
ぷりぷり怒るヤマゴンとあまり反省していない顔のケン。
いいコンビなんだな。
二人の仲の良さに小さく笑った。
そうこうしているうちに私達は目的地に到着した。