第8章 Belief
事務所を後にして二人に着いて歩く。今日は商店街のパトロール、その後に仕事の打ち合わせがあるらしい。
「ヒーローは公務員だけど特別に副業が認められているんだ。午後の打ち合わせはその副業だよ」
副業……一体何をするんだろう。
「副業っても便利屋みたいなもんだ。知人相手に護衛や送迎、行事の手伝い。ケンは保育士だからね、頼まれりゃ子守もするよ」
「保育士さんなんですか!?」
ヤマゴンの言葉に驚いて目を丸くすると、ケンは笑いながら頷いた。
「そうだよ。雄英卒業後、短大に通って資格を取ったんだ。保育の場って男が少ないからね。子供達を守れて先生達の助けにもなれたら……って思ったんだ。今は週に一度保育園に勤務しているよ!」
「凄いです!ヒーローで先生かぁ……!」
しっかりした考えを持っていて本当に凄い。雄英卒業後はそのままヒーロー事務所に就職するって思ってたから目からウロコだ。
そっか、そういう働き方もあるんだなぁ。
保育園の先生や保護者の方も園にヒーローが居てくれたら安心だろうな。子供たちも絶対嬉しいと思う。
商店街の人達に挨拶をしながら闊歩する。
新入りかい?職場体験の子だよ──というやり取りをもう三回は聞いた。
ただ着いていくだけというのもなんだから、私も二人のように道行く人に挨拶をしながら歩いた。
「この辺りは犯罪件数が少ないから、うちは他所より地域に根ざした感じかもね。事務所によっていろんなカラーがあると思うよ」
ケンの話に相槌を打つと、ヤマゴンがふと足を止めスーパーと靴屋の間にある赤茶色のビルを見上げた。
どうしたんだろう。
首を傾げてヤマゴンとビルを交互に見遣る。
「昔、ここもヒーロー事務所だったんだよ」
「今は違うんですか?」
「ああ。今は別の会社だ。ここのヒーローとはよく一緒に活動していた。今は何してるのやら。──このビル見るとね、思い出すんだよ」
ヤマゴンは寂しげな面持ちでビルを見上げて呟くように話した。