第8章 Belief
商店街の中に溶け込む三階建ての小さな白いビル。地図によるとここが、ヤマゴンさんの事務所だ。
なんだか緊張する。
ヒーローの事務所に入るのは初めてだ。
大丈夫、一応知ってる人だし…。
一人頷いて唾を飲んでから恐る恐るインターホンを押した。
するとすぐに底抜けに明るい男性の声が響いた。
「はーい!」
「あの、職場体験に来ました。雄英高校一年の綿世まりです」
「おおっ待ってたよー!どうぞ!」
重たいガラスの扉を開けるとすぐにソファとローテーブルが置かれた応接間が見えた。観葉植物を隔てた向こう側にはデスクとパソコンが並んでいる。
「いらっしゃい!今じーちゃん呼ぶから待っててね」
奥から現れたのは日焼けした肌が特徴的な、黒髪のお兄さん。彼は二階に上がる階段に向かって大きな声で「じーちゃん」と呼んだ。
「早速だけどコスチュームに着替えようか!自己紹介はそれからね!」
「は、はい!」
「こっち、更衣室だから使って。これ鍵ね!5番だよ」
給湯室とトイレ、それから更衣室の扉が並んでいる。更衣室の広さは四畳半程だろうか。“5”と記されたロッカーに荷物をしまった。
コスチュームはUSJの一件で修復に出していたが綺麗に治っていた。でも、大幅にデザインが変わっていて、背中やら胸元やら側面やらなんだか心許ない。
まずチューブトップから上下が繋がったデザインに変更されていた。上の方はもこもこしていない、ぴったりとしたスーツだ。
留め具のついたホルターネックになり、背中は大胆にも全開になっている。胸元は空いてるけど今回はお腹には布があった。
下は変わらずショートパンツ。腰の辺りからもこもこしている。でも着心地は上と変わらないからベースの素材は同じだと思う。
それからポーチのついたベルト、前と同じブーツ。ポーチにはちゃんと包帯や消毒液などが入っていた。
《コスチューム仕様 取扱説明書
──綿世 まり様
コスチュームの修復に辺り、より強度・伸縮性に優れた材質に変更し、デザインも個性使用に合わせて変更致しました。
背中を大きく空けた事で、腹部を守りつつも横から綿が出せるようになっています。その為腹部はゆとりのある作りになっておりますのでご了承下さい。》
との事だ。下の方に手書きで小さく“体育祭ナイスファイト!”と書かれていた。