第7章 Catalyst
片付けを済ませ、窓を閉める。ぼんやり今後の特訓のことを考えていたら頭の中で電球が光った。
夕焼け空に背を向けて、帰る支度をする轟くんを呼び止めた。
「ねえ、轟くん!肩ぽんってしてほしい!」
「断る」
「ええーお願い。一回だけ!なんかさっき大丈夫だった気がするんだよ。だから、お願いします」
「……一回だけなら」
「ありがとう!」
轟くんは渋々頷いた。何だかんだ頼みを聞いてくれる轟くんは優しい人だ。
どきどきしながら彼の手が肩に降りるのを待つ。
そのうち、そっと大きな手が降りてきてまたすぐに離れた。
「ほら、なんともない!ねっこれ絶対中学の時より良くなってるよ」
「俺もそう思う」
「だよね!事件のことも少しずつ思い出してきたの。触られて思い出しても、怖くなくなれば暴走もしなくなると思うんだ」
両の拳を握って笑うと轟くんは動きを止めて呟いた。
「綿世は、凄いな」
え?私に凄い要素なんてあった?
むしろだめだめな気がするんだけど……。
悶々とどこが凄いのか考えるとメンタル面とか、体育祭の成績とか、マイナスなことばかりが浮かぶ。
「さっきまで恐怖で震えてただろ。なのにまたすぐに前向いて笑うから、凄いと思った」
「そ、そんな……凄くないよ。轟くんが、みんなが頑張ってるから、私もこんなところで挫けてられないって思うんだよ。特訓付き合ってもらってる時間、無駄にしないためにも……頑張るから」
轟くんはほんの少しだけ微笑んで、私の手を取った。
「綿世との時間は何であろうと無駄じゃねぇ」
帰るぞ、と引かれた手は温かくて。
またどきどきと高鳴る心臓。頬が熱を持ち、ピンクに染まるのがわかった。