第7章 Catalyst
ずっと違うと思っていたけれど。
もしかして──
すぐにその答えを振り払う。
この感情がそういう“好き”だとしたら、よくない事だと思った。
邪な気持ちで特訓を頼んだと思われたら嫌だし、轟くんもそんな相手に触れるのなんて嫌だろう。
この胸の高鳴りは轟くんがかっこいいからだ。
かっこいい人が意味深な台詞を吐いて手を繋いできたらときめくのも仕方ないと思う。
誰だってイケメンには弱いものだってお母さんも言ってた。私も例外じゃないってことだ。女子だもの。
「変な顔してどうした」
「えっ!あ、えーと、煩悩と戦ってた?」
「悩みがあるなら聞くぞ」
手を繋いだまま顔を覗き込んでくるから、ますます顔が熱を持ってしまう。目を逸らしたら失礼だと思ったけど、やっぱり無理だった。ぎゅっと目を閉じて首を横に振って「大丈夫」と繰り返す。
「熱あるんじゃねぇか」
「うう……ん、違うんだよー」
「保健室まで歩けるか?肩貸すから掴まれ」
「ち、違うの、大丈夫だからっ!恥ずかしいだけだから」
繋いでいた私の手を肩にまわそうとするものだから慌てて否定した。轟くんはしばし沈黙して、私の顔と繋いだままの手を見比べる。
その仕草に余計、意識してしまって耳まで熱くなる。
もうやだ、こんな自分。一体どうしちゃったんだ。
見られたくなくて空いている手で顔を覆うけど、隠しきれる訳が無くて。そうしたら手から綿がもこもこ溢れて私の顔を隠してくれた。
「わりぃ、無意識に繋いでた」
「いいの。だから、ちょっと離そう?」
「…………」
「……轟くん?」
なかなか返事がないから綿がついた手を下ろして轟くんの表情を窺ったら深刻な顔で苦悩していた。
あんまりにも長考するものだから恥ずかしさも薄らいできた。
「そんな悩むならいいよ、このままで」
いつまでも眉間にしわ寄せて考えているから思わず笑ってしまった。
「いいのか?」
「いいよ。落ち着いてきたから」
手を離すかどうかでそんなに悩むとは思わなかった。なんだか可愛くてまたくすっと笑ってしまう。
手繋ぐの好きなのかな。私も嫌じゃないけど。
トラウマなんて無かったみたいに、昔からそうして一緒に歩いていたんじゃないかと思うほど、穏やかな時間。
私達は人のいない静かな廊下を並んで歩いた。