第7章 Catalyst
轟くんは大きく息を吐いて肩に置いた手を下ろした。どうやら急に固まって反応が無くなったと思えば、顔色は悪いわ震えてるわで心配かけてしまったらしい。
「ごめんね。大変な事頼んじゃったね」
「そうだな。無理すんなって言っても聞かねぇからな、お前」
「うう……私は無理じゃないと思ってるんだよ。やってみせる!って」
だけどそうすることで心配掛けてしまったのは確かだ。
もしこれが逆の立場なら私も無理しないでゆっくりでいいと声をかけただろうし、心配もしただろう。
素直にごめんなさい、と頭を下げた。
そうしたら、下げた頭にぽんと手が置かれた。後ろの方を優しく撫でられて擽ったい気持ちになる。
「ちゃんと前に進んでる。慌てなくていい」
「っうん、ありがとう。……シャツ、皺になっちゃったね」
「気にすんな。どうせ帰るだけだ。あと謝らなくていい」
「わ、先手打たれた」
「すぐ謝るからな、綿世。それに……抱き着かれて悪い気はしなかった」
顔を上げて、抱き着いてないと言おうとしてよくよく思い返したら、確かに抱き着いていたと言えるような体勢だった事に気づく。
轟くんといるとしょっちゅう恥ずかしい思いをしてる気がする。
ところで、悪い気はしないってどういう意味だろう。
なかなか近くにやって来ないペットが懐いてきたって感じの嬉しさか、そうじゃなければ、女子に抱き着かれてラッキーっていう轟くんらしくない回答しか思いつかない。
前者だなと頷いたら背中が圧迫されて苦しいことに気がついた。
「服の中、とてつもなくもこもこする」
「待て、後ろ向くから」
圧迫感の原因は綿だった。スカートからシャツの裾を出そうとしたら轟くんは顔を逸らした。
脱ぐわけじゃないから別にいいのに、と呟いたら少しは気にしろと返された。
でも服の中に詰まった綿をそのままって訳にもいかないから、結局シャツをぱたぱた揺らす。なかなか出てこなくて背中に手を回して引っ張り出した。
いっそコスチューム着て演習場でやった方がいいのかな。
昨日より綿の量が多い。知らず知らずのうちに溢れた綿が教室に散らばっていた。今日もまた箒で集めて片付ける。
この綿、なにか使い道ないかなぁ。
いっぱいになった袋を結わいて頭を捻ったけれど、いいアイデアは浮かばなかった。