第6章 Ripple
轟くんは薄氷か硝子細工でも扱うかのように、ごく軽く触れた指先や掌で私の腕を撫でる。
気づけば私の身体のあちこちから薄く淡い綿が溢れていて、そよ風に流され教室の隅に集まっていた。
「……無理しない方がいい。今日はここまでにしよう」
するりと離れた手。それにほっと安堵する自分がいた。
情けないな。自分から頼んどいて気を使わせてしまうなんて。
だけど、確かな一歩を踏み出した。だって、手は触れても大丈夫だったんだ。それだけでずっと選択肢が増える。
困っている人に手を差し伸べる事も、友達とハイタッチする事だって。ぶわあっと喜びが溢れて飛び上がった。
「轟くん、ありがとう!」
「いや。こんな感じで良かったか」
「うん!なんだかほかほかするー」
「ほかほか……」
「しない?」
控えめに彼の右手を両手で包む。私は触れられたところから体温が上がるような気がしたけど轟くんは違うのかな。
どうかと聞いてみたら、彼は穏やかな表情を浮かべた。
「……する」
「ねっ!嬉しすぎて今夜は寝られないかも。ありがとう!」
握った手を上下に振り回した。ついつい、にへらと緩んでしまう口元。一人で笑みを零しては未来のヒーロー活動に思いを馳せる。轟くんはそんな浮かれきった私を見て小さく笑った。
「力になれてよかった」
「あ!掃除して帰らないとね。ヒーローはそこで寛いでて下さいね」
「俺もやる」
「いいの。任せて!」
掃除用具入れから箒とちりとりを取り出して、床を漂う私の残骸を掃き集める。無意識に鼻歌なんか歌っちゃってて慌ててやめたけど、轟くんにばっちり聞かれてしまっていた。
赤く染まる頬を隠すように下を向いて集めた綿をちりとりに掃き入れる。ゴミ箱に捨てて後片付けをしたら終了だ。