第6章 Ripple
「泣かしちまった……」
「轟くんのせいじゃないから、ね?……あっ、あれかな」
落ち込む姿に笑ってみせたらちょうど、こじんまりとした店が見えた。
普段何気なく通り過ぎてしまうような、住宅地に溶け込んだ風貌だ。いつだったか一度だけ来たことがある。あの時は確か兄と二人で来たんだ。
轟くんが引き戸を開けるとからからと音を立てて店内が顕になる。中央にテーブルが二席と、右手に座敷が三席。左手には厨房。厨房からほわほわと湯気が立つのが見えた。テーブルと座敷には一組ずつお客さんが着いていた。
店員のおばあさんに好きな席にどうぞ、と言われて轟くんの希望で座敷に着いた。畳の方が落ち着くらしい。
せっかくなのでおすすめのお蕎麦を注文した。氷の入ったお冷を一口飲んで喉を潤す。
「そういや、昨日相澤先生から電話が来たんだが」
「なんて?」
「綿世から何か聞いたかって。もし綿世が怪しい奴に声掛けてたら止めろって言われた。何のことだ?」
おお……相澤先生、私を詐欺に引っかかるタイプだと思っていそうだ。そして轟くんに連絡するあたり、クラスのこと良く見てるなぁと思う。私が学校で轟くんと一緒にいるのって放課後の僅かな時間くらいなのに。
あの先生の事だから、きっと轟くんピンポイントに連絡したのだろう。クラスの男子全員に連絡するなんて非合理的なことはしなさそうだ。
「あのね、実は、トラウマ克服の特訓に付き合ってほしくて……相澤先生に聞いたら先生以外の信用してる人に頼めって言われたの」
真っ先に浮かんだのが轟くんだったんだ、とはにかむ。どうだろうか。首を傾げて答えを求めると、轟くんは真剣な顔で頷いた。
「俺でよければ、力になりたい」
「ありがとう!放課後、都合いい時でいいから、よろしくお願いします」
「場所はどうする?」
「使用許可取れば演習場か、空き教室使っていいって。どっちがいいかな?」
「暴走する時としない時、環境に左右されるって事も考えられる。どういう時にスイッチが入っちまうのか、糸口を掴むために教室で何度か試してから、演習場の屋内外でも試すのがいいと思う」
「確かに、大丈夫な時とそうじゃない時があったもんね。何か法則があるかもしれない」
どんな風に特訓をしていくか話し込んでいたらお蕎麦が運ばれてきた。私たちは一旦話を置いておいて、黙々とお蕎麦を食した。
