第6章 Ripple
シェラタンさんは主に地方で活動しているようだが、目立った活躍をしていないのか、はたまた報道されていないだけなのか、情報はほとんどないに等しかった。また、彼の名前で検索しても、私のあの事件については出てこなかった。
「前途多難、だなっ、と」
ホールドから手を離し、両足で着地する。本当は個性の特訓もしたいのだけど、公共の場で派手に個性を使うわけにはいかない。こればかりは学校でやるしかない。
「おはよう、お嬢ちゃん」
「おはようございます」
いつものスーパーおじいちゃんだ。つるつるの頭にランニングシャツとベージュのパンツ。どこにでもいそうな出で立ちなのに、この人私より動けるんだから驚きだ。
「雄英体育祭、見たよー。お嬢ちゃん惜しかったねぇ。頑張ってるの知ってるからね、これからも応援してるよ」
「あっ……ありがとうございます!」
おじいちゃんは朗らかに笑って、大きな鉄棒に軽々と捕まりスイスイと懸垂を繰り返す。その腕はさっきまでの細さはどこへやら、筋肉もりもりの逞しい姿に変貌していた。
「ほんと、何者ですか」
「ただのしがないジジイだよー」
またはぐらかされて何も教えてもらえないまま、トレーニングを再開した。暫く励んだ後、おじいちゃんと別れ、ウインドブレーカーを羽織って土手を走った。ここから家に戻るまでがいつものコースだ。
帰ったら朝食と母のお弁当を作らなければ──といっても夜のうちに用意したものを詰めるだけなんだけど。今日は午後から轟くんと約束しているから自分のお弁当は要らないな。
休みの日に友達と会うなんてとてつもなく久しぶりで、無意識に口元が緩んでしまう。
轟くん、お母さんと話せたかな。どうだったかな。
そういえば、私の母が彼の母と面識があるような事を言っていた。私の記憶にはないが、幼い頃会ったことがあるのかもしれない。