第6章 Ripple
「そっかーそうね、そうよね。焦凍くん、いつもまりがお世話になってます。うちの子こんなだから、何かと迷惑かけてるでしょう。……送ってくれてありがとうね。それにしてもちょっと見ない間に大きくなったわねぇ」
最後に会ったのは中学の入学式だったかしら、と呟く母は興味津々に轟くんを眺めて笑った。よく喋るのは気分が上がっている証拠だ。私は溜息をついて母を小突いたけどお呼びじゃないと言わんばかりに無視された。
「時々冬美ちゃんに会うのよ。だから同じ高校に進学したのは知ってたけど……でもまさか、あなた達が仲良しだなんてね」
「っもう、轟くん困ってるでしょ。ごめんねうるさくて」
「いや。綿世……、まりさんにはいつも助けられてます。世話になってるのは俺の方です。できればこれからも仲良くしたい……と思ってるので、よろしく、お願いします」
轟くんが至って真面目に、それもどこか緊張した面持ちで言うから、今度は私が戸惑ってしまう。そんなこと言ったらこの母は絶対何か勘違いをするだろう。
「まあ……!こちらこそ、仲良くしてやってね。こんな不束者だけどよろしくお願いします」
母は至極嬉しそうに笑っている。おかしな事を言い始める前に解散しなきゃ。私は苦笑を零して二人の変な雰囲気を壊すべくぱちんと手を打った。
「大変!もうこんな時間。お夕飯作らなきゃ!っという事で……轟くんまた連絡するね」
「ああ。……ありがとな」
轟くんは私の母に軽くお辞儀をして去っていった。その背中を見送ると、手のひらから離れた綿が風に乗って空に飛んでいった。気づけば夕日は沈み、橙から深藍のグラデーションに染まった空に一雫の星が輝いていた。
「なんだか焦凍くん変わったね」
「お母さんの目の色も変わりすぎだよ」
「あ!今日体育祭どうだった?ご飯食べたら一緒に録画みよう!その為に早く帰ってきたんだから。お兄ちゃんにも電話しなきゃ!」
「はい、はい……」
上機嫌な母は私の返事を待つ間もなく、仕事帰りとは思えないほど軽い足取りで部屋に入ると早速兄に電話を掛けていた。