第6章 Ripple
私の住むアパートの前で明後日会うならと互いに携帯を出して連絡先を交換した。無難にフルネームで登録。
「よしっじゃあまたね」
「………」
別れの挨拶をすれども轟くんからは返ってこない。不思議に思って首を傾げたら、轟くんは自身の前で緩く両手を広げて俯いた。
「綿世」
「うん?」
「また……あれ、やってほしい」
「あれ?」
彼の両手を見つめて、あ、と思い出す。今日のあれか。つまりは願掛けのようなものだろう。
改めて言われると気恥ずかしいな。でも怖くも無ければ嫌な気持ちにもならないし、何よりそれが彼の心にプラスに働くのであればお易い御用だと思った。
ぎこちなく両手を差し出して手のひらから綿を生み出す。ゆっくり綿越しに手を乗せると、轟くんは微かに表情を緩めた。
優しく包むように手を握られる。私も恐る恐る手を握ると柔らかな綿の感触と温もりを感じた。
ふと彼の顔を見上げると色の違う双眸と目が合った。綺麗、なんて言ったらまた困らせてしまうだろうから笑って誤魔化した。
「あれ、まり……と、焦凍くん!?えっウソ!なにっなんで?」
物凄く聞き覚えのある声に慌てて手を離した。
「お母さん……おかえりなさい」
「……こんばんは」
「あっこんばんは。ごめんなさいね、取り乱しちゃって。ええと、あなた達そんな仲だったの?」
「友達だよ。送ってもらってるというか、家近いから一緒に帰ってるというか……そんな感じ」
母はずり落ちた革の鞄を肩に掛け直して、言葉こそ丁寧だが好奇心を抑えられないと言うように目を輝かせている。
轟くんは戸惑っているように見えた。