第6章 Ripple
「悪かったな、ありがとう緑谷。お陰で……奴の顔が曇った」
終わりにしよう、と呟いて、彼は勢いよく氷を地に這わせた。
「どこ見てるんだ……!」
緑谷くんは凄まじい威力で氷を弾き飛ばす。
壊れてぐしゃぐしゃの指で尚も立ち向かった。
「震えてるよ、轟くん」
個性は身体機能のひとつ。轟くんも自身の冷気に耐えられる限界がある。だけど、それは左側の熱を使えば解決できる。
緑谷くんは痛みで動かすのも辛いはずの手をぐしゃりと握って声を上げた。
「半分の力で勝つ!?僕はまだ傷一つつけられちゃいないぞ!」
彼の叫ぶ姿に戦慄した。
まさか、緑谷くん……
「全力でかかってこい!!」
轟くんを、救おうとしているの?
導き出した答えに鳥肌が立つ。
彼は本当に、なんて凄い人だろう。
「全力?クソ親父に金でも握らされたか……?っイラつくな!」
緑谷くんに向かう轟くんはさっきよりもスピードが落ちている。緑谷くんはすかさず懐に飛び込んで、足の上がった一瞬の隙に腹部に拳を打ち込んだ。
轟くんは場外ギリギリまで殴り飛ばされたが、氷の壁を作り踏みとどまった。反動で緑谷くんもダメージを受けている。手から吹き出す血飛沫に思わず眉間に皺を寄せた。
あの怪我じゃもう手は動かせない。どうして、そこまでして──。
「期待に応えたいんだ!笑って応えられるような、カッコイイヒーローに……なりたいんだ!!」
緑谷くんの言葉に私まで頭突きを食らったような錯覚に陥る。皆息を飲み、二人の戦いから目が離せなかった。
緑谷くんは何かを壊そうとするように、轟くんに等身大の気持ちをぶつける。
「全力も出さないで完全否定だなんて、ふざけるなって今は思ってる!」
激痛に耐えて、ずたぼろの血まみれになって、それでも倒れること無く立ち向かっていく。轟くんの表情は、次第に、動揺を孕んだ色に変わっていった。