第6章 Ripple
「俺は……こいつを……親父の力を──」
「君の!力じゃないか!!」
はっと顔を上げた轟くんは瞳を揺らして、そして、その左半身に大きな炎を燃やした。その熱は観客席まで届くほどだった。
「勝ちてぇくせに……ちくしょう……敵に塩を送るなんて、どっちがふざけてるって話だ……」
轟くんの目には緑谷くんが映っている。
緑谷くんはやってやったと言うように口元に笑みを浮かべた。轟くんも何かを見つけたような清々しい表情をしている。
よかった……すごいよ、緑谷くん……
いつの間にか、涙が頬を伝い流れ落ちていた。
「俺だって……ヒーローに……!」
なれるよ、なって。零れ落ちる涙が折角乾いたジャージをまた濡らしていく。
どこか楽しそうに口角を上げる二人の姿がふやけて見えた。
「焦凍ォオオオ!!!」
ドームに響き渡る大声に、びくりと肩を揺らした。
あの声と燃え盛る炎──エンデヴァー、つまりは轟くんのお父さんだ。
「やっと己を受け入れたか!!」
エンデヴァーさんは顔の炎を激しく燃やし熱弁をふるう。
「俺の血を持って、俺を超えて行き!俺の野望をお前が果たせ!!」
轟くんには父の声などまるで聞こえていないのか、一ミリも振り返る気配は無く、それどころか戦いを楽しむような笑みを浮かべている。それがなんだか嬉しかった。
マイク先生の実況で静まり返っていた観客も気を取り直し、私も引っ込んだ涙を拭って対峙する二人を見つめた。
緑谷くんは手も腕も心底痛いはずなのに、轟くんの氷と炎を見て笑っている。
「どうなっても知らねぇぞ」
紅蓮の炎、地から聳える氷。
緑谷くんが脚に力を込めると風が巻き起こる。
二人は同時に飛び出した。轟くんの氷が幾つもの線を描いて緑谷くん目指し真っ直ぐに伸びる。緑谷くんはバネのように飛んで、氷の上すれすれを滑空し拳を握った。
「緑谷、ありがとな」
左手を彼に翳した轟くん。
息つく間もなく氷は溶け、真っ赤な炎が辺りを包み込む。
二人がぶつかる瞬間に現れたコンクリートの壁はいとも簡単にひび割れ、凄まじい爆発が起きた。吹き荒れる爆風に引っ張られて目も開けられない。何が起きたのか確認しようと腕で目元を覆いながら薄目を開けたけれど、煙で二人の姿は見えなかった。
二人は無事だろうか。勝敗は、どうなったのか。
主審の言葉を待つ時間がとても長く感じた。
