第5章 Fight
トーナメント一戦目。
緑谷くんと心操くんの試合は緑谷くんの逆転勝利に終わった。
普通科の応援席へ続く廊下で待ち伏せしていると、向こうから歩いてくる紫が見える。静かに名前を呼ぶと彼は訝しげな表情を浮かべぼそりと呟いた。
「俺を笑いに来たのか」
「そんなわけないよ。ひとまず、試合お疲れ様」
眉を下げて小さく微笑み、ひとつ息を吸ってから言葉を紡ぐ。
「私、あの時、怒っちゃったこと謝りに来たの。八つ当たりだった。ごめんなさい。それからね、あなたのお陰でちゃんと自分と向き合わなきゃ駄目だって気づけたから……ありがとう」
心操くんは面食らった顔をしてから、短く溜息を吐いた。
「俺の方こそ、ただの八つ当たりだった。事情も知らないのに煽っちまって悪かった」
「ううん、心操くんに言われたから進もうと思えたんだよ」
笑って言えば心操くんは口元に薄く笑みを浮かべて、お人好しだな、と呟いた。
体育祭が終わったら、相澤先生やオールマイト先生辺りにトラウマ克服の為の特訓を手伝ってもらえないか聞いてみるんだ。
それと同時に、あの事件の起きた日、私に何が起きたのか、調べなければならない。
どちらも怖いけれど、避けていては乗り越えられないと思ったから。
それに、助けてくれたヒーローにも会えたんだ。彼の名前もきっと手掛かりになる。克服できたらちゃんとお礼を伝えるんだ。救われたこと、夢を抱かせてくれたこと。
この一歩はとても大きいものだと思う。
心操くんが気づかせ、火をつけてくれたんだ。
「変な奴だって言われない?」
「んーどうだったかな、言われたかなぁ?」
「緑谷といい、お前といい……。試合見てたなら、ちょっとは警戒した方がいいよ」
「ヒーロー志望に悪い人はいないよ!来年戦う時は超警戒するね」
次は絶対残って勝つから、と告げて口角を上げると心操くんは歩きながらこちらを振り返らずに、負けねえよ、と片手を挙げた。見送る背中は、食堂で会った時より堂々として見えた。