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【ヒロアカ】Don't touch me.【轟】

第5章 Fight



「このまま試合でる」
「えっ?なにいってるの」

轟くんが真面目な顔で冗談を言うから私はくすくすと笑う。
綿を挟んで握った手は微かに温かい。
そろそろ戻ろうかと繋いだ両手を離そうとするけれど、轟くんは一向に力を緩める気配がなくて、私は疑問符を浮かべる。

「どうかした?」
「いや、なんか……離したくねぇ」
「……あ!綿ふわふわだもんね。今日のはいつもと違うんだよ」

胸中を推し量り沈黙したが、すぐに答えを見つけた。私と轟くんの手の間に挟まる綿をもふもふと押し潰す。
体育祭に備えまくったお陰でとっても柔らかくてふわっふわの上質な綿になってるんだ。我ながら最高に気持ちいい。

早寝早起き、たんぱく質多めに三食きっちり。母にお願いしてちょっとお高い食材も使わせてもらった。今の私は高級綿仕様だ。それに気がつくなんて流石轟くん、と賞賛する。

「………」
「じゃあこれ、あげるね。普段はなんか恥ずかしくて、絶対人に渡したりしないんだけど……お守りだと思って」
「……貰っとく」

轟くんはなんだか腑に落ちないような顔をした。彼の手が緩んだから、私も手を退かして綿で羊を象った物を作って渡した。二人分の体温の残る小さな羊が轟くんの手の上からポケットの中へ引っ越したのを見届ける。

「頑張ってね。応援してる」
「ああ」

笑って言うと轟くんは穏やかに相槌を打つ。
その表情に安心した。束の間の休息かもしれないけれど、彼にはそんな時間も必要だと思った。

共に過ごす事で感じる温もりは確かに私の中に広がって、悶々と考えていた事を忘れさせる。

私は、轟くんの事が好き。

この好きって気持ちはじんわり姿を変えていくから、とらえどころのない感情だなと思う。私はクラスのみんなが好き、でも轟くんの好きはそれとちょっと違ってきていて。

きっといつか。
私のこの気持ちの答えも見つかるだろう。


昼休憩もそろそろ終わる。
まだチアの衣装を着たままなことを指摘され、慌てて轟くんと別れて更衣室に向かった。この格好であちこち彷徨いていたなんて恥ずかしすぎる。


……あれ。そういえば、ポンポンどうしたっけ。

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