第5章 Fight
外に出て人気のない林の中を歩いていると、壁に背を預けて一点を見つめる彼の姿を見つけた。精神統一だろうか。とても集中している。
心配になって探していたけれど、轟くんの邪魔をしたらいけないと思い直した私は、木の後ろに座って小さく息を吐いた。
何かと縁がある轟くん。家が近所ってだけでそれほど仲良しじゃなかったし、雄英でこんなに話すようになるとは思わなかった。
一緒に過ごせば過ごすほど、私は轟くんの事を考えるようになっていて。この恋とも友情とも違う感情が何なのか、模索しても全然答えが見つからなかった。
守りたい、笑ってほしい、大切な──そんな言葉が生まれては消えていく。
轟くんはライバルで友達で、それから……。
胸に突っかえる感情は言葉で表すことが出来ず、もどかしさだけが私の心に渦巻いた。
「綿世」
「ひゃ!」
「何してんだ」
「あは……いつもの考え事です」
背後からかけられた声に肩を揺らすと轟くんがいつの間にか後ろに立って私を覗き込んでいた。立ち上がってお尻についた草を手で払い、おずおずと彼の様子を伺う。
「ごめんね。気散らしちゃったかな」
「いや、むしろ顔見れてよかった」
いくらか和らいだ瞳の色に安堵して微笑むと、彼は俯き独り言のように話し始めた。
「お前がさっき言ってた言葉……どういう意味なのか、考えてた」
──轟くんは、轟くんだよ。
お父さんでもお母さんでもない。白も赤も、氷も炎も、どちらも確かに彼であり彼の力なんだと、私は思う。
「……俺は、左が憎くて堪らない。母がそうだったように。でも、お前はどっちも好きだって言ったよな。……あの時、正直驚いたし動揺した」
轟くんは両手に視線を落として小さく、嬉しかったと呟いた。彼は私が考えているよりずっと、辛い過去を持っているのだろう。
個性とお父さん、お母さんの事。何も知らない私が口を出せる問題じゃないと思う。けれど、受け止めることはできるから。
「それが、俺が子供の頃、一番欲しかった言葉だったって思い出した。もうずっと忘れちまってたけど」
私は無意識に彼の両手に、自分の手を伸ばしていた。触れる直前にはっと我に返り、少し悩んでから手のひらから綿を出して、その上から手を重ねた。
轟くんは一瞬意外そうな表情を浮かべると、柔く私の手を握り返した。