第5章 Fight
彷徨い歩いているうちに涙は引っ込み、いよいよ焦り始めていた。
迷子だ。どこを進んでも似たような通路と階段ばかり。雄英の建物は何でもかんでも広すぎるんだとぼやいた。
A組の観覧席はどこだっけ。
目、赤くなっちゃったかな。
また皆に心配かけてないといいけど。
「わっ!」
「おっと」
考え事をしていたら何かにぶつかった。ぶつかった感触が布団かクッションのように柔らかくて驚く。
でも布団でもクッションでもない、大きな男の人だった。またやらかしてしまうかと咄嗟に後ろに下がったけど、杞憂に終わった。
なんでだろう。やっぱり、最近落ち着いてきているのかな?
中学の時はちょっとぶつかって手が触れただけでも暴走しちゃって大変だったのに。
大きな男の人はスーツを纏っていて、首から関係者の札を下げている。白いくるくるした髪が背中まで伸びていて、下の方で緩く一つに纏められていた。耳の上には角が生えている。
かっちりした眼鏡の奥の瞳はよく見えない。
「大丈夫かい?」
「あ、はい。ごめんなさい」
「いや、こちらこそ。生徒の観覧席は反対側だよ。そこの角を曲がって真っ直ぐ行くといい」
「ありがとうございます!」
良かった、偶然にも道を教えてもらえた。微笑んでお礼を言うと、その人はピタリと止まって驚いたような顔をした。
「君は──?」
「え?綿世、まり……です」
「……そうか。いや、失礼」
なんだろう?
不思議な雰囲気の人だ。立ち去るその後ろ姿を見送ると、あの時の記憶が蘇る。
大きな背中。ぼろぼろのスーツ。
優しく包み込むような笑顔。
『もう大丈夫だよ。──、──……』
「っ待って!!」
あの人は、私を救ってくれたヒーローだ。
確証はないけれど、私の第六感がそう告げる。気がつけば乾いた声で呼び止めていた。
息を吸うと心臓の音がやけにうるさく聞こえた。