第5章 Fight
彼は白い髪を揺らして静かに振り返る。
引き止めてから何を伝えるのか考えていないことに気がついて、しどろもどろになりながら口を開いた。
「えっと、あの、あなたの名前は?」
口をついて出た言葉にもっと他に何か無かったのかと自分を叱咤する。彼はしばしの沈黙の後、短く、その名を告げた。
「シェラタンだよ」
シェラタン──彼のヒーローとしての名だろうか。
記憶の中の憧れに色がつく。あの時のお礼を言おうとしたけれど、シェラタンさんは颯爽と立ち去ってしまった。彼の姿が見えなくなってから込み上げてきた嬉しさに顔を覆ってうずくまる。
逢えた!本当に来てた!!
名前聞けた!嬉しい……!
あの人──シェラタンさんのようなヒーローになるためにここまで来た。シェラタンさんは私の事なんて覚えていないだろうけど、それでも嬉しかった。
今年の体育祭は酷く悔しい結果に終わってしまったし、彼もその様子を見ていたと思う。だからこそ、次は絶対、決勝まで勝ち進んでみせる。
落ち込んでいた気持ちはもうすっきりとしていた。
後悔も反省もした。そうしたらまた前を向いて進むんだ。
まだ湿ったままの膝をそのままに、私は駆けて行く。早く戻って皆の勇姿が見たい。今日の轟くんの様子も心配だった。