第5章 Fight
『一年ステージ!生徒の入場だ!』
マイク先生の熱く響き渡る声を合図に私達はフィールドに入場する。私の心臓はさっきからドコドコ騒いでいる。
鋼の精神だとか期待の新星だなんて持ち上げるものだから会場は沸き立ち大盛り上がり。こんなに大勢の人に見られるのは人生で初めてのことで、過去最大に緊張している。
もう何度も深呼吸しているのに、全然落ち着かない。
「綿世めっちゃ緊張してんなー」
「う、うぇい……」
「ぶふっやめてよ綿世……!」
同じく緊張した面持ちの上鳴くんに指摘されて、がちがちに固まったままかろうじて出たのは情けない声。響香ちゃんが本番前に笑わせないでと口元を押さえた。
笑わせようとしたんじゃないんだけど、はからずも上鳴くんのモノマネみたいになってしまった。でもそんなやり取りで緊張が少しだけ和らいだ気がした。
私達A組に続きB組が入場し、普通科、サポート科、経営科と全てのクラスが出揃った。この前の紫髪の人もこの中にいるだろうか。会ったら話したいと思っていたがその前に戦うことになりそうだ。
あれから沢山考えて、あの人には感謝をしていた。悔しくて情けなくて、彼の言う通りこのままじゃヒーロー科にいる資格なんて無いと思った。
お腹空かせて貧血起こしたり、人に触れれば個性をぶつけたり、誰かを救って自分が倒れたり……。これじゃちょっとヒーローに憧れただけの子供同然だ。
私はちゃんと向き合わなければならないんだ。それを痛感させてくれた彼に、きちんと謝罪と感謝を伝えたいと思った。
だからこそ、この体育祭、絶対負けられない。もうみっともない自分は嫌なんだ。決意を込めて握った豆だらけの手がひりひりと痛んだ。
主審のミッドナイト先生が颯爽と登場すると、続いて選手代表の爆豪くんが台に上がった。
彼はポケットに手を突っ込んだまま、堂々と、自分が一位になると宣誓してくれた。もちろん生徒達からはブーイングが沸き起こり、A組の株は落ちまくりだ。爆豪くん派手にやらかしてくれたなぁ、と苦笑した。
だけど戻ってきた彼は、ふざけてなんかいない……本気の目をしていた。