第10章 Infatuate
瀬呂くんはけらけら笑うと、やがて私の顔を覗き込んで悪戯っぽく口角を上げた。
「ボディガードとお姫様だろ」
姫なんてどう考えても柄じゃない。
そもそもヒーロー候補生だし、か弱く守られる姿が浮かばないや。
体鍛えて汗かいてこんなに泥臭いお姫様はいないだろうと、笑いながら否定した。
「爆豪くんはボディガード頼んでも守ってくれなそうだね」
てめぇで守れやとか言って放置される、と言うと鋭い視線が飛んできた。
「お、怒った?爆破しないでね」
「あ?お望み通り爆破してやろうか?」
「望んでないって!」
「ははは!案外絡むのなお前ら」
可笑しそうに笑う切島くん。爆豪くんは「黙って食えや!」と目を吊り上げた。
だけどこのメンバー全員が押し黙る事なんて無くて、普通に会話が続けられた。
「私はボディガード側だよ。爆豪くんのことも守ったげるね」
「いらねぇわ!黙れっつってんのが聞こえねぇのか!」
「いらなくても守るよー」
「ヒーローだもんなー」
「ねー」
顔を綻ばせて上鳴くんに応えたら彼が持っていたハンバーガーからトマトが零れ落ちた。幸いお皿の上だったけど、一緒にソースの雫もあちこちに飛んだ。
あー、あるあるだぁ。私も過去に何度かやらかした。
上鳴くんが声を上げて慌てるから切島くんと瀬呂くんは何やってんだかと笑う。爆豪くんはアホかと呟いて赤いスープの絡んだ麺を啜った。
ポケットの中からティッシュを出して上鳴くんの腕についたソースを拭い、それからテーブルに散った雫も拭き取った。
奇跡的にシャツにはついていなさそう。
「さ、さんきゅ」
「いーえ」
照れ臭そうな上鳴くん。これあげるね、と彼の近くにまだ中身の入ったティッシュを置いた。