第10章 Infatuate
「綿世が嫌なら、しねぇ」
「私がダメって訳じゃなくて。好き合ってる人以外にしたらいけない、と思うよ」
「綿世にしかしねぇから安心しろ」
「んーそうじゃなくて……」
至極真面目な顔で言う轟くんに頭を抱えた。
轟くんは私のことが好きなのかと一瞬でも思ってしまったことは認める。けれど、彼の気持ちは恋愛とかそういうものじゃないと思い始めていた。
やっぱり甘えたいだけとか、たまたま仲良くなった私に所有欲みたいなものを覚えてしまっただけとかじゃないか。
そうだとしても私のすることは変わらないだろう。
何であっても彼が望む限りは、居場所や拠り所であれたらと思うから。
こうも翻弄されるのは困るけれど。
だって私達は、友達で、同じ夢を志すライバルだ。
それ以上かと言われたらそうかもしれない。でも恋人かと言われれば、それは違うだろう。
「だめ、だけど、私が克服して特訓が必要なくなったら……考える」
曖昧で、一言で表せられない関係。
この関係に名前をつけたい訳じゃないけれど。全て乗り越えることができたら、その時は私の想いを伝えよう。
こんなに近い距離にいたら、ずっとしまっておくのは難しいってことがよくわかったから。
轟くんは問答無用で距離を詰めてくるし、不意打ちだって仕掛けてくる。
さっきみたいな空気になると私は感情を隠せる自信が無い。早く克服して彼に気づかれてしまう前に、素直に白状しよう。
好きだって。
そういう目で見てしまってごめんって。
その後も変わらず接してくれるだろうか。拒絶されたら悲しいな。
轟くんは微かに微笑んで私の髪を撫でた。
「楽しみにしてる」
柔らかい表情にどきりとして、誤魔化すように彼の頭についた綿を摘んで取った。腰に回された手は未だ離してくれそうにない。
それから素朴な疑問を投げかけた。
「ねえ、轟くん。今日の特訓は?」
「?さっきのだろ」
さっきの──キスが?
不服だと訴えるように轟くんを一瞥した。だってあれ、予定外だし頼んでない。
思い出してまた顔が熱くなると同時に瞳が濡れる感覚がして、塞き止めるように息を止めた。
轟くんは初めてだって言ってた。
でも私は、初めてかどうかわからない。
過去ヴィランにされたのなら、それが初めてになるのだろう。そう思うと胸の奥が冷たくなるような気がした。
