第10章 Infatuate
一日の授業を終え皆が帰り支度を済ませる中、私は轟くんに声をかけた。
「テスト勉強捗ってる?」
「あぁ。座学は問題ねぇな」
「さすがだぁ。私数学が行き詰まってて。応用問題に弱くて、上手く解けなくて……林間合宿行けなかったらどうしよう」
「そんなにまずいのか?」
「自信ない」
期末にもなると全ての教科の勉強をしなくてはならない。普通科目プラスヒーロー科目と多い上に、範囲も広くててんてこ舞いだ。
今度休み時間にでも教えて、と控えめにお願いすると、轟くんは少し考えてから口を開いた。
「なら、日曜日。見舞いの後になるが一緒に勉強するか」
「え!いいの?」
「ああ」
予期せぬお誘いに私はぱあっと表情を明るくした。轟くんは中間の成績上位なんだ。そんな人に教えてもらえるなんて心強い。
「姉さんにうちでしてもいいか聞いてみる」
「轟くんち?大丈夫?」
「人呼んだことねぇから驚かれるとは思うが、大丈夫だろ」
「おお、尚更心配だ……」
初めての来客が私でいいのかな。エンデヴァーさん怒らないかな。一人不安になるけれど、轟くんはいつもの調子で教室を後にする。
私も鞄片手に皆に手を振ってから、彼の後を追いかけた。
轟くんの怪我は保健室で治癒をして貰ってもう完治している。ということで特訓は今日から再開だ。
ちなみに、テストが終わるまで週に一回程度にしようと約束した。
演習場は先輩方が使うらしく、今日も変わらず空き教室だ。使用許可を貰い、見慣れた殺風景な教室へ赴いた。
「ちょっと久しぶりだねー」
鞄を隅に置いて窓を開ける。こもった室内に雨季らしくない爽やかな風が通った。半袖のブラウスがはためき、スカートが揺れる。
この心地よい風も後一ヶ月しないうちに、湿った暖かいものに変わるだろう。
「綿世、」
ふわり。
優しく包まれるような感覚が訪れる。
窓の外から視線を外すと、傷痕の残る腕が私の腰に緩く回されていた。