第7章 美しき花よ
空き時間は書斎に籠るクセがすっかり付いてしまった。
未だに思い出せぬ童話にモヤモヤとしながら。
人間の脳とは余程良くできているであろう。
残念ながら今は人間と呼ぶには些か奇怪な身体となったが。
死ぬほど嫌だと、屈辱だという記憶と、忘れまいと思うほど幸福な記憶しか大抵は思い出せない。
他のことは引出し奥にしまってしまう。
どうでもいいことなんかは割とすぐに思い出せるが、大切な物ほど、戸棚の奥にある自分だけの引出しにしまってしまう。
なくさないようにとすればするほど、その隠し場所を忘れてしまうのは、誰にでもよくあることだ。
こびりついた泥を流すように、葉巻をまた一つ灰に変えた。