第1章 童話の記憶
………砂漠には、雪を降らす魔女がいる。
そんな話を幼い頃に聞いた、記憶がある。
断片的なそれは、その部分しか覚えていないが、それがなんとなく引っ掛かっていた。
そんな話を思い出していたのは、アラバスタで大雪が降ったからだ。
こっちではそんな指示は出していない。
概ね、本物の奇跡とやらだろう。
「なぁ……、砂漠に雪を降らす魔女の、童話を知らないか?」
「あなたがそんなロマンチックな話をするなんて、珍しいわね」
「質問にだけ答えろ」
「……知らないわ」
「そうか」
どこで読んでどこで知ったのかすら思い出せない物語が気になる。
結末は、読んだのだろうか。
らしくねえな、と気だるい気持ちを抱えて、鰐の水槽を通り、門をくぐり、大雪を間近で見た。
椰子の木にかかる白銀が、異様で不気味だ。