【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第94章 〝私〟について(その2)
すみません、と言う安室さんの笑みを思い出すたびに胸が苦しくなる。
そんなふうに笑ってほしくない。
もっと、もっとあなたは、――れいは、そんなふうに笑う人じゃなかったのに。
「……はっ、あ……っ、はあ……ぅ」
目が覚めた。
また、泣いていた。
目が覚めると覚えていない夢。
けれど、どうしてだか目が覚めて浮かぶのはいつも安室さんのこと。
あれから一週間が経つ。
下の階にある喫茶店で安室さんが働いていることを知ったのは、翌日に蘭さんが教えてくれたから。
店の前を掃除している姿を上からこっそりと眺めたのは数日前。……声もかけてないし、あちらも気づいていたとは思えない。
蘭さんに誘われて外に出かける時だって、ポアロの中を探してしまう。――可愛らしい店員さんと笑ってるのを見て、胸が苦しくなった。
この痛みを知っている気がするのは、きっと私が彼を好きだったということ。
会いたかったと抱きついた日。
戸惑いながらも受け入れてくれた。
れい、と呼ぶと甘い声で答えてくれるあの声がもう一度聞きたいと思うくらいに苦しい。
あの感覚が薄れていく。
本当に私の中で消えてしまう気がする。
消えてほしくない。
ほしくないのに――
痛い。
とても、心が痛い。
胸の内側がずっと何かに締め付けられているように痛い。
思い出したいのに思い出したくない。
離れているのに、彼と過ごしている時のような感覚を思い出す。
離れたくなかったと、毎日目が覚めると思ってしまうんだ。
病気みたいだ。
病気だと言われた方がまだマシで。
心は、体は覚えているというのなら、それなら、温かい感情があってほしかった。
指輪はあった。だけど、彼との写真は一枚もなくて。
付き合っていたと言っても、別れる直前だったんじゃないか。
そう思うと腑に落ちるのに、蘭さんたちが話す〝私〟はそうじゃなくて。
だから、わからなくて困る。
怖い。
なにが怖いのかわからないのが、怖い。
思い出さなくても良い、そう言われても――私の知らない私がいることが、怖い。
私を諦める時間が欲しかったと言った安室さんは、どんな気持ちだったんだろう。
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