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【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】

第92章 それが例え間違いでも


その手紙は、リビングの机の上に置いて部屋を出た。
最低限の荷物を持って。
ケースに入っている指輪を持っていくか悩んだのは、どうしてか自分でも分からない。
でも、それを手放したくないと強く思う自分が怖くて、……置いて出ていくことにした。
最低限の衣類だけ。
不自然なくらい、付き合っていたにしては何もない。写真の一枚も飾っていない。いや、……見てすらいない。
そんなこと、あり得るのだろうか。
普通、あり得ないだろう。
そう考えれば考えるほど、不自然な関係に思えてしまう。
怖い。
落ち着かない。
好かれていたことに嘘はないと思う。でも、私は安室さんが怖かった。それだけじゃない。安室さんの前にいる自分に対しても、怖かったんだ。
関係が本当か分からなかったこととか。
……並んだ歯ブラシとか、グラスの数が偶数とか、……信じようと思えば信じられることすら、疑いに変わってしまう時点で、私は安室さんのそばにいられない。
お互いに。


言い訳をいっぱいいっぱい繰り返して、私は電車に乗った。
沖矢さんと打ち合わせをしたから。
わざと監視カメラに写って、わざと通行人が多いところを通って。


そして、監視カメラのないところで落ち合った。
急ぐように助手席に乗って、沖矢さんが「これを」と渡してきた帽子と上着をすぐにつけて、シートベルトをしめて落ち着いて、……気になっていたことを聞いてみた。

「沖矢さんの下の名前って昴さん、ですよね」
「ええ」
「車は」
「スバルですね」

茶目っ気に笑ってしまう。
ああ、……うん。
この人の隣は心地良い。
住んでいたアパートが火事に遭い、知り合いの家に用心を兼ねて居候させてもらっているのだという家は、所謂豪邸だと呆然とする私に沖矢さんは腕を引っ張り、部屋へと連れる。
玄関に入って、向き合うように抱きしめられて、……恥ずかしさにその胸板に顔をうずめると、機嫌の良さそうに喉奥で笑う小さな声が聞こえて顔を見上げた。

「私が住むことに、家主さんには、許可はもらってるんですか」
「ああ。……ちょうど来ているところですし」

紹介しますよ、と手を繋ぐように掴まれ、リビングへと連れられて。



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