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【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】

第90章 いらない記憶


退院の日。
受付で手続きを終えたタイミングで、安室さんは訪れた。
爽やかで、人当たりの良い笑みを浮かべて、私の荷物を車まで運んでくれた。

「○○には、暫く僕の家に以前と同じように住んでもらいます。正直気まずいと思いますが、働けない今、引っ越しも大変でしょう?」

運転する横顔は、とても綺麗で。

アパートに辿り着いた私に、何か思い出せるかと言うような視線を向けるから静かに首を横に振った。

アパートに入ってすぐのキッチンとリビング。
リビングには、中央にパーテーションが置かれていて。

「寝室も共にしていたものですから、これまで貴女の部屋がなかったので。すみません、僕の部屋は仕事でも使うのでしばらくはこれで我慢してもらえますか?」
「はい、……大丈夫です。むしろ気を遣っていただいて申し訳ありません」
「貴女さえよければ、僕が仕事紹介しましょうか」
「いえ、……そこまでお世話になるわけには」
「そう言うと思いました。……安心してください。僕は、貴女に急いで記憶を戻してほしいとは思ってませんから」

私が嫌だと感じることを、……先に言われてしまったら、まるで自分が子供扱いされてるようで。

「あの、私、貴方と、……安室さんと付き合っていた、んですよね」

一緒に暮らしていた、というのは本当なんだろう。
でも、本当に付き合っていたのだろうか。そう思うほどに、安室さんの態度はどこか……

「それは、『今の貴女』に関係ありますか」

興味もない癖に、と。
そう、言われた気がして。

……ああ、うん、そうだ。私が嫌がっていたはずなのに。

だってそれは、
私にとって
いらない記憶。
思い出したくないから、思い出せない。
思い出そうとすると重たくて嫌な気持ちになる。

だからそれは、嫌なこと。
いらない記憶。

「そうですね」

ああ、今。
なんでだろう。


無性に、糸目のあの人に会いたい。



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