第5章 ヘルサレムズ・ロットとクズと私
ザップは赤い刃を抱え直した。
表からは激しい銃声、武器の応酬音が聞こえた。
だが私はザップに、
「ザップ。今生まれて初めて、あなたのことをカッコいいと思いました!!」
するとクズは噴きだし、
「遅すぎだ、バーカ!」
そう言って私にキスをし、表に飛び出していった。
…………
…………
悪い奴らは全員、始末された。
店の表は、警察のパトカーやら野次馬やらで大騒ぎ。
死体はまだ回収されず、そこらに転がってる。
ガレキも散乱し、どこの紛争跡だという感じ。
そして。
「どうしたものか……」
ズタボロになった店の前で、私は途方に暮れた。
「すみません。救命措置をしましたが、間に合わず……」
ツェッドさんが申し訳無さそうにする。
地面に倒れた血まみれの店長を前に。
もう息はない。
嫌いだったし、死の直前には私を売ろうとした奴だが、こうして死体になられると何とも言えない感情がこみあげてくる。
「い、いえ、ありがとうございます」
どうにか笑った。
「経営難でヤバい取引に手を出してたみたいですね。それでマフィアともめちゃって……」
レオナルドさんが言う。
なるほど。どうしても計算が合わない箇所があると思ったけど、理由はそれだったか。
クソ野郎。何も考えず結婚したら犯罪の片棒を担がされるとこだった。
「それより、これからどうするんだ。チサト」
ザップが葉巻を吸いながら聞いてくる。
結果的に助けられたが、さっきの武器といい襲撃の情報を入手してたらしいコトといい、結局何者なんだろう。
……ま、いいか。興味はない。
私は腕まくりし、服のホコリをはらった。
「もちろん、この混乱に乗じて店を乗っ取りますよ。
権利関係の書類の場所は知ってるし」
店の外観の損壊は大きいが、中はほとんど無事だし、調理スタッフも生きている。
やることも困難も山ほどあるが、早めの営業再開は不可能ではない。
「ザップ。名義書換えしてくれる裏仕事の人、紹介して下さい。
あと超お安くて良い仕事をする修繕業者も」
するとザップは煙を吐きながらニッと笑う。
「いいぜ!」
本当に嬉しそうに。