第5章 駆引
「良かったのか、行かなくて。」
「興味がねェし別に女には困ってねェ。」
「まぁそうだろうな。」
力のありそうな海賊は街の女に言い寄られやすい。
とりわけローのような見てくれの良い男は、取り合いになることも珍しくない。
「お前こそ、元舞台女優があんなこと言わせといていいのか?芋女。」
「演者としてまだまだいけるってことだ、褒め言葉と受け取っておく。」
イーストブルーで有名な移動型劇場船の、舞台女優xxxxを知らない者などいない。
今となっては、別の形でその名は知れ渡ってしまったが。
*
街中を抜けると人混みは疎らとなった。
私たちは石畳の通り沿いにある雑貨屋へ入ったが、市場の方が賑わう時間なのか、広い店内に買い物客はほとんどいなかった。
雑貨屋は衣料品や食料、薬品と幅広く扱っていて、私はショートパンツやブーツ、Tシャツなど、動きやすそうな服を購入した。
ローのいる方へ戻ると、薬などの医療品を見ているところだった。
商品を掴む長い指には、文字が刻まれている。
私は、意味ありげに唐突な質問を投げかけた。
「人攫いの仕事は、もうしていないのか?」
ローは物を選ぶ手を止めた。
この男に会うのは今回の一件が初めてではない。
シャボンディ諸島のオークション会場で見かけたとき、私は既に思い出していた。
「随分と記憶力が良いようだな。」
「両腕に派手な刺青の入ったいい男を、忘れる方が難しいだろう。」
探るように、試すように、皮肉を込めた言葉を行き来させる。
私を攫いに来た男と、数年後このような形で、立場も全く異なる状況で再開することになろうとは思ってもみなかった。
ローは手に取っていた商品を置いて、こちらへ歩いてきた。
そのまま腕を掴まれると、身体を引き寄せられた。