第5章 駆引
ハートの海賊団での生活もだいぶ慣れてきた。
クルーたちはとても親切で毎日よく話しかけてくれたし、不自由もなかった。
食堂で、これから小さな島に上陸し物資を調達すると、PENGINと書かれた帽子のクルーが教えてくれた。
海中を進むため海軍の目の届かないルートが取れるのか、そこまで慎重になる心配はないらしい。
新聞によると海軍内も内部体制の立て直しを優先しているようで、頂上決戦の残党狩りのほとぼりは一旦冷めていた。
とはいえ、一見では正体が分からぬよう、皆いつものツナギ姿ではない適当な私服に着替えている。
上陸はもうすぐのようだ。
「必要なものを買ってやる、お前も準備しろ。」
ローの口調は拒否権がないように思えたが、服などはほぼだめになってしまったので、一緒に行くことにした。
船を出る前に、お前は目立つからとつば付きの帽子を渡された。
*
島は過ごしやすい気候の春島で、港の近くは小規模ながら市場や商店で賑わっていた。
市場から島の中心に向かって緩やかな傾斜になっていて、石畳が連なっている。
クルーたちは酒!飯!女!と騒ぎながら街へ消えて行った。
俺から離れるな、と釘を刺されたため、私はローと行動を共にした。
街中に入るとすぐ、派手な出で立ちの女たちがローに言い寄ってきた。
腕を絡ませ次々と口説き始めるが、ローは不機嫌そうな顔をしたままだ。
ローのすぐ後ろを歩く私に気付いた女たちは、怪訝そうに覗き込んだ。
「そんな芋っぽいな子連れてどこ行くの?」「素敵なあなたに相応しくないわ」「あっちで遊びましょ」
腰まである髪をしまいこみ、深く被った大き目の帽子。
戦闘でボロボロになった自前のブーツ。
借りものの黒いパーカーは膝まで丈があるし、重苦しくだぼついている。
できれば男に扮したかったが、華奢な体型のせいで女であることは隠せそうにない。
そう、今の私は芋と称されるに相応しい、かつての劇場船の看板女優が聞いて呆れる出で立ちをしている。
「邪魔だ、どけ」
ローは機嫌悪そうに女の腕を振り切り、私の腕を掴んでその場を後にした。