第3章 融解
シャワーを浴びながら、数日前に治療を受けた時のローの言葉を思い出していた。
"胸の傷は貫通しているがじき塞がる。落とされた右腕は、動くまでに時間がかかるだろうな。"
胸元、左鎖骨の下あたりのに目をやると、拳くらいの大きさの穴が、塞がった跡がある。
右腕の赤黒くなった切り口は縫合の跡が痛々しく、動かせないし、触っても感覚がない。
通常の人間よりは回復力は高い方だが、この腕は治りが悪いようだ。
重症もいいところだな、と呆れながら、胸の傷跡、赤犬に空けられた穴を撫で、蛇口を捻った。
動かない右腕を不便に思いながら、服を着る。
服は、ぼろぼろになった自分の服の隣に置いてあった、丈の長いパーカーを拝借した。
私は数週間ぶりに立ち上がり、歩いた。
自分の眠っていた場所を改めて確認する。
見回すと、ここは医務室のようで、ベッドの他に医療器具や薬が入ったキャビネット、医学書の本棚が並んでいる。
シャワーや洗面台も備え付けられており、入院用の病室のように見えた。
潜水しているのだろう、丸い窓の向こうには暗い海が広がっている。
壁掛け時計は昼を指していた。
動く分には問題なさそうだったので、医務室を出た。
扉を開けた左右には、船内の薄暗い廊下が続いている。
廊下を眺めているとすぐ、どすどすという足音と共に、左手から白い影が現れた。
「あ、起きたんだ!」
現れたのは二足歩行をする白熊で、ついてきてと、間髪入れず私の手を引き、歩き出した。