第2章 微熱
そうだ、私はルフィを助けるため海軍と戦った結果、重傷を負ったのだ。
最後に覚えているのは、海に落ちたことと、この男に居合わせたこと。
どういうわけかこの男に、救われたのだろう。
「麦わら屋は無事だ、数日前に目覚めて女ヶ島へ置いてきた。」
無事、という言葉にひとまず安堵し、そうか、と小さく返した。
「レイリーと一緒だ。お前はしばらく眠り続けていた。」
「助けてくれたこと、礼を言う……トラファルガー・ロー、だが、なぜ。」
声が掠れているのは、久しぶりに喉を動かしたせいだ。
ついさっきまで戦っていたと思うほど、時間だけがごっそりと抜け落ちている。
「ローでいい、ただの気まぐれだ。」
開いた傷口の手当を始めながら、ローは淡々と答えた。
「普通ならとっくに死んでいた。噂通り、ずいぶん丈夫な身体だな。」
手当を受けながら、まだ寝起きのような頭で懸命に思考を巡らした。
記憶も曖昧な状態では、この男の言葉が信用に足るか否かもわからない。
自分の置かれた状況を判断するためには、正しい情報を集め、状況を整理しなければ…。
しかし、どれも今すぐには叶わないことばかりだ。
「この調子なら数日で歩けるようになるだろう。今はまだおとなしくしておけ。」
ローの声にはっとした時には、開いた傷口の治療が終わっていた。
そうだ、この状況が凶でも吉でも、今はできることなどない。
この男に命を救われたという事実があるだけだ。
深刻な顔をしていたのか、宥められるように身体を横たえさせられた。
気が動転し早くなっていた鼓動も、だんだんと落ち着きを取り戻していくのを感じた。
横になると、再び瞼が重くなる。
熱は下がったみたいだな、と頬に当てられた手はひんやりとしていた。
考えることを手放せないでいる私に、頭を冷やせと言われているようで、悪くない心地良さだと思った。