第8章 煙雨
「少しは動くみてェだな。その右腕を治したのは、トラファルガー・ローか?」
喋れるようになることが目的だったので、再度捕まることは承知の上だ。
首を解放されて、思考をするにも余裕ができた。
「ルフィが…どこに、いるか…だと…ふふ、私、が…知りたいくらいだ…ッ…。」
まだ息の上がっている私は、咳を交えながら言った。
そう、こいつはルフィにしか興味がない。
また本部の命令に背き、部下も連れずにこんな辺境まで探しに来ているのだろう。
ニアミスとはいえ、恐ろしい嗅覚だ。
「恍けるな。」
後ろ手を掴まれたまま無理矢理身体を起こされ、咄嗟に呻き声が出る。
手首が悲鳴を上げていたが、それ以上に右腕が痛んだ。
苦しい顔で背後を見ると、いい眺めじゃねェかとスモーカーが笑った。
葉巻の臭いが目に染みる。
ふと笑みを見せると、何がおかしい、とスモーカーは不機嫌そうな顔になった。
「お前たちには、まだ知らされていないようだな。」
私の衣服の中から一枚の紙がはらりと落ちた。
正確には、こうなることを見越してわざとこの体制になり、落とした。
海軍の封が貼られた令状が、スモーカーの目にとまる。
「こいつは…まさか…」
スモーカーは、落ちた令状を片手で拾い上げる。
「そいつがある限り、お前は私に手出しできない。」
私もお前に攻撃できないがな、と付け加える。
「なんだと…」
令状の中身を確認すると、驚いた表情になり、焦りの色を見せ始める。
「そこにある通りだ。お前でも、今の海軍の立て直しに必要なのは理解できるだろう?」
スモーカーは軽く舌打ちすると、掴んでいた私の手を乱暴に離した。
「命拾いしたな。」
とても納得できないという顔をして、スモーカーは煙と共に立ち去った。
地面に座り込むと、煙のように燻る雨が、周囲を舞い始めていた。