第6章 傷痕
パタンと食堂の扉をしめると、丸い窓の外に薄暗い雲が広がっているのが見えた。
小雨が降っているようだが、構わず外に出る。
春島でのことを思い出していた。
嫌いじゃない、という表現はぴったりだ。
食後は甲板でリハビリを兼ねて、トレーニングするのが日課となっていた。
一通り構えを確認し終え休んでいると、クルーのひとりが走ってきた。
帽子にはSHACHIと書かれている。
「xxxxさん!これベポが作ったんですけど、身体にいいみたいです!どうぞ!」
どうやら、果物が入った飲み物のようだ。
「ありがとう、いただくよ。ええと…」
「シャチです!」
シャチと甲板への出入り口についた屋根の下に戻った。
二人並んで雨宿りできる程度の大きさだ。
「あの…さっきはすみませんでした。俺たち調子乗ってたくさん話しかけちゃって…」
シャチはすまなそうに頭を下げた。
「構わない。賑やかなのはうちの船も同じだ。」
「ほんとですか!よかった!」
「お前たちは本当にローを慕っているんだな。」
「もちろんです!俺たちの船長ですから!!」
ベポが作った飲み物は、果物がミルクと程よく混ざりとてもおいしかった。
「xxxxさんにとっての麦わらは、違うんですか?」
ほとんど無意識だった。
他愛もない会話なのに、意表を突かれたような顔をしただろう。
少しの間を置いて、私は答えた。
「そうだな、慕っているに変わりはないが、少し違うかな。」
「対等、ってことですか?」
「いいや…」
右腕の傷痕に、そっと手を伸ばす。
「私の、すべてだ。」
いつの間にか雨は止んでいた。
扉の前にできた水たまりに、誰かの影が映った気がした。