第18章 その瞳は何を映す
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「病気だよ。みんな、自分が何かになれると思いこんでる」
青年が呟く。
「そうだね。奴らは病気だ、だから…」
隣の女も笑って頷く。
「「治さなきゃあ」」
2人の声が、重なった。
煌々と燃え盛る炎を見つめ、女は薄く笑った。
「ねぇ、こいつらの個性、凄く使えないね!すぐ捨てちゃった!」
「汚いな、病人共から奪おうとするな」
「そんなこと言ったってさぁ!」
「…はしゃぎすぎだ、落ち着け」
青年と女は、同じような格好をしていた。
カーキグリーンのモッズコートに、大きく禍々しいペストマスク。
そのコートの中には、黒いスーツを着用している。
白いネクタイと、スニーカーが特徴的だった。
違いを強いて挙げるのであれば、青年が手袋をしていることと、女がフードを目深に被っていることだろうか。
それを女と判るのは、コートの袖から覗く華奢な手首と、吐き出す美しい声からだった。
信号機に腰掛けている白いコートの男は、青年に話しかける。
女の騒ぐ言葉は、全く気にしていない。
「金は頂いたんで、ヒーローが来る前にとっととずらかりやしょーや
オーバーホール」
「あー!針、私のこと無視しな」
「おまえはもう帰れ。見つかったら面倒だ」
女の言うことを遮って、青年が言い放つ。
冷たいともとれる言葉だったが、女はハイハイと頷いた。
これが、2人の普段の会話なのだ。
「わかったよう。じゃーね、また連絡してね」
そんな言葉だけをその場に残して、女はふわっと姿を消した。
まるで、そこには最初から居なかったかのように。
そして、その光景を、見ていた者が──────1名。
黒いフルフェイスマスクを身に纏う男は、物陰に隠れて、しっかりと青年を見ていた。
「よォし…どうしよっ…っかな!?」