第17章 森の忍者は夜に狩る
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カタン
安普請のアパートの、古い郵便受けが音を立てた。
新聞は取っていないはずだけれど。
通販は利用しないし、この住所は家族以外誰にも教えていない。
何なのだろう。
浅い眠りから叩き起された終綴は、ムクリと起き上がってポストの中を覗き込んだ。
茶封筒が入っている。
気になって、下からそれを引っこ抜く。
思ったほど力は要らず、簡単に抜けた。
送り主には、「雄英高校」と記されている。
何だ学校か、と封筒を開けた。
出てきたのは3つ折りになった1枚のプリント。
『父兄の皆様へ
雄英高校 全寮制導入検討のお知らせ』
そんな文字が並んでいた。
ろくに内容も見ないで、終綴はくしゃくしゃとそれを丸める。
そして、
ゴミ箱に投げ入れた。
何事もなかったかのように、今何時だとスマホに電源を入れて驚く。
──もう昼か。
結局昨日は家族で楽しい時間を過ごした後、部屋から追い出した男がまた来て急かすものだから相手をして、彼に引き離されて────つまり、いつもと同じような時を過ごした。
幸せではあったが如何せん帰りが遅くなってしまったため、疲れが溜まっていたらしい。
勿論原因の大部分が、男と彼の相手をしたから、というものではあるのだが。
もう一度時間を確認する。
昼時ではあるけれど、起きたばかりで食欲も湧いていない。
夜だけでいいかと思い、もう一眠りしようとして思い直し、地図アプリを起動した。
眉間に皺を寄せているが、何を考えているのだろうか。
しかし、そんな終綴の思考を遮るかのように、スマホが着信を告げた。
「おはよう」
『もう昼前だが』
「私は今起きたもん…おはようだし…」
『…そうか。
プリント届いたか?』
「全寮制のなら」
『家庭訪問で親御さんとお話することになってるんだが、お前のは親父さんと繋がらん』
「お父さん植物状態だからさ…今私一人暮らしだし、承諾とかそういうの要らないよ」
『そうか』
ところで。
相澤は言った。
『血の繋がってる方の、俺達の母親はどこに居るんだ?』
父親は相澤を引き取り、終綴は母親に引き取られた。
彼女の言う「お父さん」は再婚相手なのだろうが、それなら母親は何処にいるのだ?
しかし、終綴は知らないよと言う。
「何も言わずに出て行っちゃったから」