第2章 はじめまして
しかし相澤はそれ以上言わず、オールマイトの横を通り過ぎた。
個性についてはクラス名簿を見て知っている。
筆記の点数を補えるほどに優秀な実技の点数も把握している。
出身の中学は、地元らしい市立だった。
調査書によると、運動神経は抜群。
理系科目は他の追随を許さないほどに優秀だが、文系科目はその真逆の成績だったようだ。
クラスメイトとの交流については、何も記されていない。
友人の多いタイプではなかったのかもしれない。
──うーん。何だかなぁ。
やはり彼女に対して抱くのは、違和感。
些細ではあるけれど。
理系科目が得意。
教師も唸るほどに。
採点担当のマイクが言っていたが、彼女は殊に医学系の問題に強いようだった。
医者になろうと思わずに、なぜヒーローを目指す?
今日のテストで本気を出さない理由なら何となく納得がいく。
個性をあますところなく使うことがまだできないのだろう。
クラスメイトたちの個性を知るまでは、まだ。
──しかし、「今までの」だけでも充分じゃないのか?
それに、と入試の際の彼女の服装を思い出す。
──スーツ、ねえ。
動きやすい服装で来る生徒が多い中、彼女だけはきっちりとしたスーツで来ていた。
第一ボタンまでしっかりとしめ、ネクタイまで結んでいた。
どこかの勤め人のような格好だと、その時は思った。
でも、冷静に考えるとおかしいのだ。
たかが15、6の子供が勤め人に見える、そのこと自体がおかしい。
その年代だと、スーツでは違和感があるはずなのだ。
着慣れていないはずなのだから。
では、あのフィット感は何だったのだろう?
糊がついているわけでもなかったから、新品ではないと思う。
サイズはぴったり、つまり本人の私物。
親のものを借りたというわけでもない。
否、親と体型が同じという可能性ならあるが────果たして、スーツを貸すことがあるだろうか?
汗を大量にかくと判っている試験において?
動きやすい服装で、と受験票には記載してあったはずだ。
普通の親であるなら、合格を願ってジャージで行けと言うだろうに。
たかが服装ひとつに、ここまで考えるのはおかしいかもしれない。
例え、彼女の瞳が鋭い威圧感を放っていたとしても。
相澤も微妙に引っかかりを感じていたのだが────
人の良いオールマイトは、気のせいだろう、と思い直した。