第7章 夢の後。
「…翔太。」
飛び起きた私は、いつもの体のダルさに
目覚めた事を実感した。
「…翔太やったら、横でまだ寝てるで…。」
ビックリしたような顔の浩二君がいた。
…帰って来たんや…。
ママだった余韻が抜けない私は、なんだかちょっと
…いや、かなり寂しくなっていた。
だけど、今にも目覚めそうな彼を見て、
不安に襲われた。
……あれで良かったんやろか……。
私は、彼の顔を不安げに覗き込んでいた。
「…凛。コイツと何があった?」
何から話そうかと考えていたら、手を掴まれた。
「…!!翔太…君。」
「あかんで、凛ちゃん。浩二に
知られるのは恥ずかしい言うたやん。」
彼はひょいっと起き上がると、
私の腕を掴んで立ち上がらせてくれた。
『ありがとう。凛ママ。』
耳元で、小さく囁かれた。
…覚えてくれてる。
それが、何だか嬉しかった。
…そんなやり取りを、浩二君が
無言で見ていた…。
翔太君もまた、私に感謝を口にしてくれた。
そして、偽物の母親でごめんねと
気にしていた私に、
「そこを気にしたら、義理の母親が皆、
偽物の母親って事になってしまうやん。」
「まあ、今まで俺自身がそう思ってたからこそ、
彼女とどう接していいのか分からんかったんやって
事やったんやなぁ…。」
…って、言ってくれた。
「お母さんって、あんなに温かい優しい存在
なんかもって思った。」
「凛ちゃんが、そう思わせてくれたんやで。
与えてくれる優しさに、素直に返せばいいんやって、
今なら分かるわ。」
…なんやろう。彼の中に確実に
何かが芽生えたって思える。
良かった。私のやった事、間違ってはなかった…。
「弟にも普通に優しく接してやればいいだけやったのに、
どう接するのが正しいのか解んなくて
なんか恐かったんやと思うわ。」
自分の気持ちを整理しながら、話している
ように…感じた。
そんな『彼との思い出』の事を思い出してたら、
すごく、お母さんに会いたくなった。
今日は、急いで帰ろう。
お母さんの好きな、駅前のケーキ屋さんの
ケーキを買って帰ろう。